建設業許可において「営業所」の扱いは非常に重要なポイントになります。営業所の数や場所による許可の種類が変わったり、営業所に配置する技術者を間違うと建設業法違反になってしまう事もあります。
本記事では建設業許可における「営業所」について理解が深まるようどこよりも詳しく解説していきます。
本記事のポイント
工事の請負契約業務を扱う事務所が営業所
営業所には配置が義務付けられる人員有
配置場所と数によって許可区分が異なる
建設業許可における営業所とは
営業所という言葉はなにも建設業許可でしか使わない言葉ではありません。ですので、建設業許可における「営業所」の定義を正しく理解しなければいけません。
建設業許可における営業所の定義は下記の通りです。
常に、建設工事の請負契約を締結する事務所のこと。請負契約の締結には、見積りや入札など請負契約の締結に係る実体的な行為も含まれる。
※他の営業所に対し契約に関する指導監督を行う等、営業に実質的に関与する場合も該当
つまり建設工事を受注する体制が整っている事務所が営業所として扱われる事になります。この定義は許可のガイドラインにわかりやすく載っていますのでそちらを参考にして下さい。
「営業所」とは、本店又は支店若しくは常時建設工事の請負契約を締結する事務所をいう。したがって、本店又は支店は常時建設工事の請負契約を締結する事務所でない場合であっても、他の営業所に対し請負契約に関する指導監督を行う等建設業に係る営業に実質的に関与するものである場合には、当然本条の営業所に該当する。
また「常時請負契約を締結する事務所」とは、請負契約の見積り、入札、狭義の契約締結等請負契約の締結に係る実体的な行為を行う事務所をいい、契約書の名義人が当該事務所を代表する者であるか否かを問わない。
契約に関する業務を行わない事務所は営業所に該当しない
営業所の定義をおわかりいただけましたでしょうか?つまり例えば会社の事務所や事業所が10個あっても、その10個すべてが建設業許可においての「営業所」に該当するとは限らないという事なんですね。では営業所に該当しないものを具体的に見ていきましょう。
工事の請負契約に関する業務を行わない事務所は営業所に該当しないため、わかりやすい例でいうと下記などは例え従業員が沢山いる事務所や支店だとしても営業所には該当しません。
・経理業務などしか行わない事務所
・資材置き場
・現場事務所
・作業所
またよくある勘違いとしては、登記上は本店や本社になっていても、そこで建設工事の請負業務を行っていない場合は営業所に該当しません。
これらの営業所に該当しない事務所は、後ほど説明する営業所に求められる要件(専任技術者の配置など)を満たしている必要はありません。そのかわり、当然そこで建設工事の受注などをすることもできません。
主たる営業所と従たる営業所の違い
建設業許可の申請実務では「主たる営業所」と「従たる営業所」という言葉が出来てきます。それぞれの違いをご説明していきます。
主たる営業所は簡単に言うと本店や本社
主たる営業所とは、建設業を営む営業所を統轄し、指揮監督する権限を有する1か所の営業所のことです。建設業許可を取る場合に、必ず設ける必要があります(営業所無しでは許可は認められません)。営業所が1つしかない業者の場合、かならずその営業所が「主たる営業所」になります。通常は本社、本店のことを指す場合が多いです(ただし上記のとおり、単なる登記上の本社、本店等の場合は該当しません)。
従たる営業所は主たる営業所以外の全ての営業所を指す
従たる営業所とは、主たる営業所以外のすべての営業所のことです。主たる営業所は建設業許可を取る場合に、必ず1か所設置しなければいけません(複数設置は不可)が、従たる営業所は設置してもしなくてもどちらでも良いです(複数設置も可能)。
簡単にいうと「主たる営業所=本店」、「従たる営業所=各支店」と理解頂くと大抵は大丈夫です(細かい論点は当然ありますが)。
営業所の配置場所によって取る許可の種類が違う!
営業所の定義をきちんと理解しておく必要があるのは、営業所の配置場所によって申請する許可が変わってくるからです。建設業許可には営業所の配置場所によって下記のどちかの許可を申請することになります。
基本的には営業所がある都道府県に対して許可を申請するという認識でOKですが、営業所が2つ以上の都道府県にある場合は国(国土交通大臣)に対して許可を申請すると覚えておきましょう。
営業所はどんな建物や部屋でも良いわけではない!
ここからは少し実務的な話を具体的にしていきます。建設業許可を申請する際に、申請業者が設ける営業所についても申請を行います。営業所は建設業を営むうえで必要不可欠なものですので、許可を受ける際の審査対象になるわけです。
この際、営業所として認めてもらえるにはその要件が必要になります。営業所の要件は申請を行う各行政庁(都道府県)によって異なりますので、一概にこうとは言えませんが、一例としてまず東京都の例を見てみましょう。
※下記、東京都の建設業許可申請の手引きから引用
(1) 外部から来客を迎え入れ、建設工事の請負契約締結等の実体的な業務を行っていること
(2) 電話、机、各種事務台帳等を備えていること
(3) 契約の締結等ができるスペースを有し、かつ、居住部分、他法人又は他の個人事業主とは間仕切り等で明確に区分されているなど独立性が保たれていること
(4) 営業用事務所としての使用権原を有していること(自己所有の建物か、賃貸借契約等を結んでいること(住居専用契約は、原則として、認められません。) )。
(5) 看板、標識等で外部から建設業の営業所であることが分かるように表示してあること
(6) 経営業務の管理責任者又は建設業法施行令第3条に規定する使用人(建設工事の請負契約締結等の権限を付与された者)が常勤していること
(7) 専任技術者が常勤していること
次に比較として大阪府の例を見てみましょう。
※下記、大阪府の建設業許可申請の手引きから引用
・事務所など建設業の営業を行うべき場所を常時使用する権限を有していること
・建物の外観又は入口等において、申請者の商号又は名称が確認できること
・固定電話、事務機器、机等什器備品を備えていること
・許可を受けた建設業者にあっては、営業所ごとに法第40条に基づく標識(建設業の許可票)を掲げていること
・支店等の代表者が常勤しており、かつ契約締結等に関する権限を申請者から委任されていること
・専任技術者が営業所に常勤して専らその職務に従事していること
似たような要件が設定されていますが微妙に異なることがわかるかと思います。許可申請をお考えの方は、申請される窓口の手引きを確認するようにしましょう。
営業所には必ず配置しなければいけない人的要件がある
ここからは建設業法違反にも絡みやすい重要な話になります。上記でも少し出てきましたが、営業所を設ける場合、必ずその営業所に配置しないといけない人物がいます。
それぞれ下記の通りです。
ア. 経営業務の管理責任者(経営統括)
イ. 専任技術者(技術的サポート)
ウ. 令3条使用人(営業所の代表者)
イ. 専任技術者(技術的サポート)
ア.経営業務の管理責任者
主たる営業所に1人配置しなければなりません。この経営業務の管理責任者は許可を取る為の条件になっており、この者が社内にいないとそもそも許可自体を取る事ができません。経営業務の管理責任者になるには建設業の経営経験が5年以上必要になるなど厳しい条件があります。(詳しく知りたい方は「経営業務の管理責任者について」を参照下さい)
イ.専任技術者
主たる営業所と従たる営業所のどちらにも1人以上配置しなければなりません。この専任技術者として認められるには、一定の資格や実務経験がないとダメですので誰でもなれるわけではなりません。逆に言うと社内にそういった人物が複数いない場合は、営業所を複数持つことも認められないという事になります(詳しく知りたい方は「専任技術者について」を参照下さい)。
ウ.令3条使用人
従たる営業所に1人配置しなければなりません。あまりなじみのない言葉だと思いますが簡単に言うと「支店長」や「営業所長」の事をさします。請負契約の締結業務などに関して権限を持っている必要があり、欠格要件の非該当などが求められます(詳しく知りたい方は「令3条使用人について」を参照下さい)。
またここで紹介した上記3名は、各営業所に常勤である事が求められます。つまり1人の人が異なる営業所の専任技術者や令3条使用人を掛け持ちするようなことは出来ないという事です(「常勤」について詳しい解説はコチラ)。
必要な人員が退職した場合などは注意が必要!
営業所にこれらの人員を配置していない場合、建設業法違反になってしまいます。
特に注意が必要なのが、許可をとったあとに、専任技術者や令3条使用人が会社を退職した場合などです。これらの人員が営業所からいなくなった場合、新しいものを任命するか営業所を閉める必要があります。しかしそれらの対応を忘れてそのまま営業を続けてしまっていた場合、建設業法違反を知らないうちに犯してしまっていた、ということになってしまいます。
営業所に必要なこれらの人員については、常に気を配るようにしなければなりません。
【注意】営業所ごとに請負える業種は決まる
複数営業所があり、許可業種も複数取得されている場合には特に注意が必要なんですが、どの営業所でも全ての許可業種の工事が請負えるわけではありません。
営業所で請け負える工事の業種は、その営業所にいる専任技術者が有する資格や実務経験に依存します。例えば、大工工事と左官工事のどちらの許可も持っているA社にはB営業所とC営業所があったとします。B営業所には大工工事を請負える資格を持っている専任技術者しかいない場合は、B営業所で左官工事を請負う事はできません。一方C営業所には大工・左官もどちらにも関係する国家資格を持った専任技術者がいる場合は、C営業所ではどちらの工事も請負う事が可能です。
ここで最も勘違いしやすいので注意して頂きたいのが、会社として許可を受けた業種については、例え軽微な建設工事であっても、その業種に関する専任技術者がいない営業所では工事を受注してはいけません。例えば先ほどの例でいうと、B営業所では500万円未満の左官工事であっても請負う事が出来ないということになります。ここは本当に良く勘違いされるケースですので注意するようにしましょう。
なお、建設業の種類(29業種)については詳しく知りたい方は「これで間違えない!建設業の29業種を徹底解説」を参照下さい。
建設業許可における営業所とはまとめ
以上。ここまで建設業許可における営業所についてご紹介してきました。
建設業許可の取得や取得後の適切な業務運用には、「営業所」を正しく理解する事が必要不可欠です。一般的には会社の営業所や支店と考えられる事務所でも、建設業法上の営業所に当たらないケースはよくありますので、その点をしっかりと抑えたうえで、必要な申請内容や人員の配置を考える事が大切です。
建設業許可についてもっと詳しく知りたい方は