建設業許可の申請書類の書き方にお困りではありませんか?本記事では申請書類のひとつ「工事経歴書(様式第二号)」について、その書き方をイチからわかり易く解説していきます。この工事経歴書は申請書類の中でも非常に重要かつ記載ルールが細かく決められている書類です。許可業者は正しく理解する事が必須ですので、ぜひ本記事を参考に書き方をマスターして下さい。
※注意事項
申請書類の書き方は各都道府県や自治体によって異なります。実際に申請される際は、申請先の手引きを必ずご確認下さい。
申請書類「工事経歴書」について
工事経歴書(様式第二号)の概要と書式見本については下記の通りです。
※「国土交通省HP」からダウンロードできます
工事経歴書の提出が必要な申請区分
工事経歴書(様式第二号)の申請区分による提出必要可否は下記の通りで、更新申請以外は全て提出が必要な書類です。
また本書類は申請する業種ごとに作成が必要ですので、例えば10業種を新規又は追加申請する場合は業種ごとに10枚作成し提出する必要があります。
またこの工事経歴書は、新規申請以外でも、許可取得業者が毎年提出を義務付けられる「決算変更届(呼び名は地域で異なる)」の際にも提出する書類のひとつでもあり、許可業者にとってはその書き方を正しく理解しておかないといけない書類のひとつです。
工事経歴書の書き方・記入例
では早速、工事経歴書(様式第二号)の書き方と記入例を見ていきましょう。工事経歴書は、記載内容はそこまで難しくありませんが「いつの工事について書けばよいのか」や「何個実績を書けばよいのか」「どんな順番で書けば良いのか」等、書き方が悩ましい書類です。そのあたりも後半でしっかり解説しますので、まずはどんな内容を記入するのか見ていきましょう。
※記入例はわかりやすく赤字で記載していますが、申請で認められているのは黒インクのみです。
記入例
①建設工事の種類
許可を受けようとする業種ごとに作成するため、該当ページに記載する工事の種類を記入します。
②税込・税抜の別
当該ページに記載する金額が税込か税抜かわかるようにどちらかに〇を付けます。経営事項審査を申請する予定があるかないかでどちらを選ぶべきか変わってきます。
必ず「税抜」を選択します(建設業許可事務ガイドラインで規定)。免税事業者の場合は税込とします。
どちらでもかまいません。特に事情がなければ、会計士や税理士が作成する財務諸表に合わせると良いでしょう。
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③注文者
工事の注文者を記入します。発注者が個人の場合は、氏名が特定されない書き方をする必要があります(「個人A」などと記入しましょう)。
④元請又は下請の別
工事が元請工事の場合「元請」、下請け工事の場合は「下請」と記入します。
⑤JVの別
工事が共同企業体(JV)として実施した工事であれば「JV」と記入します。
民法上の組合にあたり、合弁事業を意味する英語joint ventureから「JV」と呼称される。
⑥工事名
請負った工事の名称を記入します。この時も発注者同様、個人の氏名が特定される書き方はさけましょう(A邸○○工事など)。店舗や建物、施設の名称(ビル名等)は、個人名ではないのでそのまま記入して問題ありません。名称については、請負契約書や注文書の記載に合わせて記入するのが良いでしょう(名称から工事業種や施設がわかるような書き方が望ましい)。
⑦現場のある都道府県及び市区町村名
工事現場の場所を都道府県名から市区町村名までで記入します。
⑧配置技術者の氏名
現場に配置された配置技術者(主任技術者や監理技術者)の名前を記載します。配置技術者の記載は非常に重要な論点を含みますので、後ほど詳しく解説します。
⑨主任技術者又は監理技術者の別
上記⑧で記入した配置技術者が主任技術者か監理技術者かに応じて各欄に「レ印」記入します。
⑩請負代金の額
工事の請負代金について記入します。共同企業体(JV)として行った工事については、共同企業体全体の請負代金の額に出資の割合を乗じた額又は分担した工事額を記載します。また、工事進行基準を採用している場合には、当該工事進行基準が適用される完成工事について、その完成工事高を括弧書きで追記します。
⑪請負代金の額(一部特定の工事)
工事の一部に下記の3工事のどれかが含まれる場合は、該当する略称に〇をつけ、その工事に係った請負代金の額については、通常記入する欄のひとつ右隣の欄にもその代金のみ別途記入します。
②方面処理工事(方面処理)
③鋼橋上部工事(鋼橋上部)
※()内は略称
なお、上記3工事はそれぞれ①は土木一式工事、②はとび・土工・コンクリート工事、③は鋼構造物工事でしか扱わない工事です(それ以外の種類の工事について記載する場合はこの欄は空欄でOKです)。
⑫工期
工事の工期を着工年月と完成年月(もしくは完成予定年月)にわけて記入します。
⑬小計
小計に記載する数字は本ページに記入した完成工事に関する数字の合算になります。一番左の欄に工事の合計件数、その隣に請負代金の額の合計、その隣にPC工事、方面処理工事、鋼橋上部工事のいずれかに係った請負代金の額の合計(ない場合は空欄)を記入します。
⑭小計のうちの元請工事該当分
小計に記入した請負代金の額の中に、元請工事の請負代金が含まれる場合に、その元請工事の代金分のみを記入します。左に該当する元請工事分の金額を、右にPC工事、方面処理工事、鋼橋上部工事のいずれかに該当する金額(ない場合は空欄)を記入します。
⑮合計
合計に記載する数字は、その請け負った全ての完成工事に関する数字の合算になります。(その会計年度に完成工事高を計上した全ての工事)。複数ページの場合は最終ページのみ記入でOKです。
一番左の欄に工事の合計件数、その隣に請負代金の額の合計、その隣にPC工事、方面処理工事、鋼橋上部工事のいずれかに係った請負代金の額の合計(ない場合は空欄)を記入します。
⑯小計のうちの元請工事該当分
小計に記入した請負代金の額の中に、元請工事の請負代金が含まれる場合に、その元請工事の代金分のみを記入します。左に該当する元請工事分の金額を、右にPC工事、方面処理工事、鋼橋上部工事のいずれかに該当する金額(ない場合は空欄)を記入します。
【重要】工事経歴書への記入対象となる工事
工事経歴書の書き方についてはご理解いただけたと思いますので、次は工事経歴書への記入対象となる工事について見ていきましょう。「いつの工事をどんな順番で書けばよいかわからない」というのが最大の悩みだと思います。工事経歴書の記入対象工事を正しく理解するには「対象期間」と「記載工事」について理解する事が重要です。
対象期間は申請する期の直前期
工事経歴書に記入する工事は、申請日が属する事業年度のひとつ前の事業年度中に完成した工事、及び請け負った未完成工事が対象となります。もう少しかみくだくと、本書類に記入する工事は「前年度に完成させた工事」と「前年度に請け負ったけどまだ完成していない未完成工事」ということです。
記載する工事は金額の大きい順にが原則
記載する工事は、対象期間における金額の大きい完成工事から順に上から記載するのが原則です。ただし、経営事項審査を受ける場合と受けない場合で、その書き方のルールが異なります。特に経営事項審査を受ける場合は、審査前に決算変更届を必ず提出しますが、その提出書類の中にこの工事経歴書も含まれますので、必ず正しいルール通りに記入する必要があります。
経営事項審査を受けない場合
経営事項審査を受審する予定が無い場合は下記手順で記入します。
①完成工事について記入
完成した工事について、元請工事、下請工事に関係なく額の大きい工事の順に上から書いていきます。
②未完成工事の記入
完成工事についてすべて記入したら、それに続けて未完成工事についても同様に請負代金の額の大きい順に記入します。未完成工事が無い場合は記入しない為、①で完了になります。
記入する工事の数については、各都道府県によって求められる数は異なりますが、額の大きい工事を上から10~15個程度や、完成工事高(その事業年度に完成した全ての工事の請負代金の合計)の70%以上に相当する数などを記入させるケースが多いです
【重要】経営事項審査を受ける場合
経営事項審査を受ける場合は非常に細かくルールが決まっており、下記手順にそって記入していきます。
①完成した元請工事の記入
まずは完成した元請工事についてのみ記入していきます。ただし全ての元請工事を記入する必要はなく、完成した元請工事の請負代金の合計の7割を超える所までを、請負金額の大きい順に記入します。この時、7割を超えるまでに500万円(一式は1500万円)未満の軽微な工事を10 件記入すればそこまでで記入はOKです。また、7割を超えるまでに記入した工事の請負代金の合計が1,000億円を超えた場合もそこまででOKです(この場合は②を飛ばして③まで進みます)。
②未記入の元請工事及び下請工事の記入
上記①に続けて記入するのは、まだ①で書いていない完成した元請工事と、完成した下請工事を金額の大きい順に記入していきます。全ての完成工事の請負代金の合計の7割を超える所までを記入します。また先ほど同様、7割を超えるまでに、500万円(一式は1500万円)未満の軽微な工事を10 件(この10件には①で記入した軽微な工事も含める)記入、もしくは、記入した工事の請負代金合計が1,000億円を超えた場合もそこまででOKです。
③未完成工事の記入
未完成工事があれば、請負代金の額が大きい順に記入します。未完成工事がない場合は②までで記入は完了です。
非常にややこしいですが、簡単に言うと、まずは完成した元請工事だけを大きい順に記入し、元請工事全体の7割以上を見える化する、それが完了したら、今度は完成した下請け工事も含めて大きい順に完成工事を並べて全体の7割以上を見える化する、という流れです(以下にこれらをまとめたフローを貼っておきます)。
引用:国土交通省
工事経歴書の書き方(事例別の記入例)
ではここで更に理解を深める為に、2つのケースを具体例としてその記入方法を見ていきましょう。
記入例ケース①
下記のようなケースでの記入例を見ていきましょう。
業種 | とび・土木・コンクリート | |
決算期 | 2020/4/1~2021/3/31 | |
施工実績 | 14件/1億6,640万円 | |
元請工事 | A工事 | 3,600万円 |
B工事 | 2,500万円 | |
C工事 | 2,200万円 | |
D工事 | 1,400万円 | |
元請合計 | 9,700万円 | |
下請工事 | E工事 | 1,500万円 |
F工事 | 810万円 | |
G工事 | 800万円 | |
H工事 | 700万円 | |
I工事 | 700万円 | |
J工事 | 680万円 | |
K工事 | 650万円 | |
L工事 | 400万円 | |
M工事 | 400万円 | |
N工事 | 300万円 | |
下請合計 | 6,940万円 |
▼ 前年実績が上記のような場合は、下記のような記入になります(下請け工事は色を変えています)。
【解説】
まずは元請工事を記入します。金額の大きい順に上から記入していきますが「ア~イ」で元請工事の請負代金の合計の7割を超える金額になる為、元請工事の記入はここまでで終了です。
次に先ほどの書かなかった元請工事および下請工事を、金額の大きい順に先ほどの続きから書いていくと、上記の「ウ~カ」の順番になります。「ア~カ」の請負代金の合計が、全ての工事の請負代金の合計の7割を超えた為、記入は完了です。未完成の工事があればその工事を続けて記載しますが今回は無いため、これで本書類は完成となります。
事例別の記入例②
では次に軽微な工事件数が多い下記のようなケースでの記入例を見ていきましょう。
業種 | とび・土木・コンクリート | |
決算期 | 2020/4/1~2020/3/31 | |
施工実績 | 33件/4,170万円 | |
元請工事 | A工事 | 1,000万円 |
B工事 | 300万円 | |
C工事 | 150万円 | |
D工事 | 110万円 | |
元請合計 | 1,560万円 | |
下請工事 | E工事 | 170万円 |
F工事 | 160万円 | |
G工事 | 120万円 | |
H工事 | 120万円 | |
I工事 | 120万円 | |
J工事 | 120万円 | |
K工事 | 100万円 | |
L工事 | 100万円 | |
M工事 | 100万円 | |
その他20件 | 1,500万円 | |
下請合計 | 2,610万円 |
▼ 前年実績が上記のような場合は、下記のような記入になります(下請け工事は色を変えています)。
【解説】
まずは元請工事を記入します。金額の大きい順に上から記入していきますが「ア~イ」で元請工事の請負代金の合計の7割を超える金額になる為、元請工事の記入はここまでで完了です。
次に先ほどの書かなかった元請工事および下請工事を、金額の大きい順に先ほどの続きから書いていくと、上記の「ウ~サ」の順番になります。「ア~サ」の請負代金の合計では、全ての工事の請負代金の合計の7割は超えていませんが、「イ~サ」で軽微な工事が10件に達した為、記入はここで完了です。未完成の工事があればその工事を続けて記載しますが今回は無いため、これで本書類は完成となります。
【注意】配置技術者に関する業法違反が多い
工事経歴書は特に経営事項審査を受ける業者の場合、その中身を行政はしっかりチェックします。その際に、散見されるのが配置技術者の配置方法が建設業法違反となっているケースです。
建設業許可業者は、請け負った現場に配置技術者(主任技術者または監理技術者)を必ず配置しなければならず、またその配置技術者に専任技術者はなる事が出来ません(一部例外あり)。また専任を求められる現場の場合、配置技術者は他の現場の配置技術者を兼任することも出来ません。
このように配置技術者は建設業法上様々な制限が設けられておりますが、工事経歴書上でそれらのルールを逸脱した配置技術者の配置がされているケースがあると当然指摘を受ける事になります。こういった業法違反を犯さないという課題は、工事経歴書以前の話にはなりますが、普段から正しく配置技術者に関するルールを理解して、正しくその配置を行う事が何より重要になります(下記の記事で詳しくそのあたりを解説していますので参考にして下さい)。
申請書類作成でお困りの方は
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工事経歴書の書き方まとめ
以上、ここまで工事経歴書の書き方についてご紹介しました。
工事経歴書は書き方のルールが難解で、またその作成には正しい建設業法の理解も重要なポイントになってきます。許可の新規申請時はもちろんのこと、許可取得後も決算変更届の提出書類のひとつとして毎年作成し提出する書類になります。正しい書き方と建設業法の理解に努めていきましょう。