人手不足が深刻な建設業界において、現在多くの企業が活用している外国人技能実習制度。自社でも技能実習生の受入れをしたい!とお考えの皆様に向けて、建設分野における技能実習制度の概要から活用の方法やメリット、かかる費用などをわかりやすく解説していきます。
本記事のポイント
技能実習は国際協力が目的の人材育成制度
技能実習生は最長で5年間日本に滞在可能
建設分野は受入れ可能職種や人数に規定有
技能実習制度について
外国人技能実習制度は、開発途上地域の外国人を日本で受け入れ、日本の技能、技術又は知識を現場で習得し自国に持ち帰ってもらうことで当該地域の経済発展につなげる「人材育成」を通じた国際協力を目的として、1993年に創設された制度です。現在の制度は2017年11月に施工された「技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)」に基づき運用されています。
建設業の現場作業は、法律上「単純作業」に分類されますが、外国人は原則日本国内で単純労働に就くことは禁止されています(日本人の雇用を守るため)。その為、外国人が現場作業に従事するにはこの「技能実習制度」を活用するケースが一般的で、現在現場に従事する外国人のほとんどは技能実習生で占められています。
技能実習生の区分(在留資格)
技能実習制度は前述したとおり「人材育成」を通した国際協力を目的とした制度のため、実習生は期間が来ると母国に帰ることが前提です。そのため最大でも5年間しか日本に滞在することはできません。またその技能の習熟度合いによって区分(在留資格)が以下の3つに分かれています。
技能実習1号
技能実習生はまずは技能実習1号という在留資格からスタートします。技能等を修得する期間となり、滞在可能期間は1年間になります。1年後以降も引き続き技能実習生として滞在したい場合は、技能実習生本人が所定の技能評価試験(学科と実技)に合格し、技能実習2号に移行する必要があります。
技能実習2号
技能実習1号を経て評価試験に合格すると技能実習2号という在留資格に移行します。滞在可能期間は2年間(技能実習として2,3年目に該当)で、習得した技能をさらに習熟させる期間となります。技能実習3号への移行には実習生本人が技能試験に合格する必要があります。
技能実習3号
通常技能実習は1号2号をあわせた3年間となることが多いですが、この技能実習3号の在留資格に移行すれば、さらに2年間の滞在が認められ、1号から数えると最長で5年間技能実習生として技能を学ぶことが可能になります。技能実習3号に移行する為には、技能試験の合格だけでなく、管理団体や受入れ企業が優良認定を国から受ける必要があるなど、いくつか条件が課せられている点は注意しましょう。
技能実習生の受け入れ方式
技能実習生の受け入れは「企業単独型」と「団体管理型」2つの受け入れ方式があり、受け入れ企業はどちらかの方式を任意に選択可能です。ただし、企業単独型は海外に現地法人等がある大企業を除いては実質選択肢にはなりずらく、ほとんどの建設業社は団体監理型の受け入れ方式を取っています。
企業単独型
受け入れ企業が自社の海外の現地法人や合弁企業、取引先企業の常勤職員などを実習生として直接受け入れる方式。複雑な入国手続きや入国後の実習生の管理監督も全て自社行うため、ノウハウや専門知識が必要で、また海外の事業所を持っているなどの条件を満たす必要もあり、海外に進出している大企業が主に取り入れている。
団体監理型
事業協同組合等の中小企業団体や商工会等の非営利団体(監理団体)を通じて実習生を受け入れる方式。監理団体が入国時の手続きや入国後のサポートを代行してくれる為、実習生を受け入れた事がない会社でも受け入れのハードルが下がるメリットがあるが、管理団体への費用が初回や月々発生する。
監理団体について
監理団体とは、技能実習生を受け入れ、実習生やその受け入れ企業へのサポート等を行う非営利団体です。具体的には実習生の受け入れをしたい企業から依頼を受け、技能実習生の募集から受け入れにかかる手続き、受け入れ後は実習生の生活管理やサポートまで代行し、また受け入れ企業の監査や指導も行います。
また監理団体には一般監理事業と特定監理事業の2つのランクがあり、一般監理事業の許可を受けることができるのは、実績を積み高い水準を満たした優良な監理団体に限ります。技能実習3号の在留資格に移行したい場合は、必ず一般管理事業の認定を受けた管理団体を通じて実習生を受け入れる必要がありますので注意しましょう。
建設業で技能実習生を受け入れる際の注意点
建設分野での技能実習生を受け入れは、他分野ではない特例がいくつか設けられています。建設分野における技能実習生の失踪率が他分野より高いことが業界内で問題になり、受け入れ側により厳しい条件が求められるようになったためです。技能実習生を受け入れたい場合、必ず条件をクリアしていなければいけませんので注意しましょう。
受け入れ可能な業種が決まっている
建設分野で技能実習生を受け入れる事が出来る職種は22職種33作業に限定されています(以下表を参照)。これらの職種以外で技能実習生を受け入れることはできません(今後、各職種の業界団体の働きかけにより職種が拡大される可能性はあります)。
建設業許可とキャリアップシステムの登録が必須
技能実習生を受け入れる企業は、建設業許可の取得と建設キャリアアップシステムシステムの登録が必須になります(事業者登録と技能者登録の両方が必要)。建設業許可の取得には最低でも1ヶ月かかるため、スケジュール感にも注意が必要です。
受け入れ人数の上限が決まっている
企業が受け入れ可能な技能実習生の人数も上限が定められています。受け入れ企業の常勤従業員の数を基準に上限が決められており、その数以上に実習生を受け入れる事はできず、また受け入れ企業の常勤職員数を超える実習生の受け入れも禁止されています(受け入れ企業および監理団体が優良認定を受けている場合は基準が緩和されます)。
技能実習生の受け入れにかかる費用
建設業で技能実習生を受け入れるにはどの程度費用がかかる見ていきましょう。依頼する監理団体や実習生の国籍などにより費用は変わってきますが、一人あたりおおよそ以下の費用がかかってきます。
初期費用 | 30~50万円 |
給料 | 15~20万円/月 |
組合監理費用 | 2~5万円/月 |
その他費用 | 5~10万円/年 |
初期費用
初期費用は依頼する監理団体により大きく異なりますが、実習生の渡航費や入国手続き、事前教育、入国後講習などにかかる費用が初期費用としておおよそ30~50万円程度かかってきます。
給料
建設分野で受け入れる技能実習生の給料は必ず月給制としなければいけません。また当然ですが最低賃金以下の設定は不可ですし、時間外や休日、深夜に働いた分は割増賃金を支払う必要があります。
組合監理費用
監理団体に毎月監理費用を支払う必要があります。団体毎に料金は異なりますが、おおむね総額で毎月2~5万円程度が一般的です。企業単独型での受け入れの場合はかからない費用になります。
その他費用
他にも在留資格の更新費用や、技能実習1号から2号に移行する際の試験費用、実習生が一時帰国する場合の渡航費など細かい費用も発生しますので、年間に10万円程度は技能実習関連で発生すると想定しておくとよいでしょう。
これらの費用はあくまでも目安ではありますが、技能実習生を受け入れるにはある程度費用がかかることは認識しておきましょう。日本人より安価な労働力という考え方で技能実習生を受け入れてもうまくいきません。受け入れ企業は実習生が技能を習得する場としての役割を自社が担っていることをきちんと認識しなければいけません。
技能実習生を受け入れるメリット
それでは建設業社が技能実習生を受け入れるメリットはどのようなものが考えられるのでしょうか?現在、主に以下のようなメリットから建設業界でも積極的に技能実習生を受け入れる企業が増えています。
若く意欲のある実習生が多く会社に活気がでる
技能実習生の多くはベトナムやフィリピン、ミャンマーなど日本より物価の安い地域から来日し、母国ではまずありえない額の給与を受け取れるため非常に意欲的に働き、また母国に戻ってからも日本で得た技能を活かして活躍するため熱心に実習に取り組みます。またお国柄、真面目で明るい性格の実習生も多く、会社に活気がでるといったメリットもあるようです。
転職のリスクがない
技能実習生は原則受け入れ企業を変更する事はできず、転職なども認められません。その為、せっかく費用と時間をかけて受け入れた人材が転職や引き抜きによりいなくなるリスクがありません。
海外進出時の強みとすることができる
技能実習生の母国に現地法人を作り、技能実習が終了後に現地法人で技術者として働いてもらえば、海外進出時の貴重な人材となってもらうことができます。そのように将来的な海外進出を考えて技能実習生の受け入れに乗り出す企業も増えています。
技能実習生を受け入れたい!と思ったら
ここまで読んで頂き、「当社でも技能実習生の受け入れを検討したい!」と思って頂けた場合、まずは監理団体を調べるところから始めましょう。監理団体は現在日本各地に存在しており、団体毎に得意や国や職種が異なります。自社で受け入れたい人材に強い監理団体を選べばトラブルのリスクも抑える事が可能です。
実習生のケアや管理がずさんな団体を選んでしまい、受け入れた実習生が失踪などすれば、かけた費用や時間が無駄になってしまうこともあるので、費用の安さだけで監理団体を選ぶことは絶対に避けましょう。
またスケジュール感にも注意が必要です。技能実習生を受け入れる為には、技能実習計画の認定を受けたり、在留資格の交付申請、ビザの申請など入国前に多くの手続きが必要になり、これらは余裕を見てトータルで半年ほどかかると想定しておきましょう。基本的には監理団体が代行やサポートしてくれますので手続き自体の心配はそこまでする必要はありませんが、技能実習生の受け入れには半年ほどの準備期間が必要である点は押さえておきましょう。
>>技能実習生の受け入れについて詳しく知りたい方は「建設業者が初めて技能実習生を受け入れるまでの手順を解説」を参照ください
建設業で技能実習生を受け入れる方法まとめ
以上、ここまで建設業で技能実習生を受け入れる方法についてご紹介しました。
現在多くの現場で技能実習生が活躍しています。人手不足の建設業界においても、意欲的に技能を学びたい外国人の存在は年々その重要性をましています。若くエネルギッシュな外国人の存在は自社社員の刺激にもなり、受け入れ企業内でも良い影響が出ている例もあります。自社の成長の為にも技能実習生の受け入れを一度検討してみてはいかがでしょうか。