建設工事の現場には「現場代理人」と呼ばれるポジションの人がいます。
この現場代理人について、主任技術者や監理技術者との違いや配置義務の有無など、正しく理解している方は少ないのではないでしょうか?
本記事では、この現場代理人について詳しく紹介していきます。
本記事のポイント
現場代理人は公共工事の契約上配置が義務
現場代理人の条件は契約の中で規定
同一現場であれば主任技術者らと兼務可能
現場代理人とは?
現場代理人は、工事の請負人(通常、工事の受注業者の取締役や個人事業主の事を指す)に代わって、工事現場に駐在し、工事の運営や取締まり、また契約に基づく一切の権限を行使する事ができる人物の事です。
「工事の受注業者に代わって」とありますが、受注業者以外の人間がつとめるケースはほとんどなく、多くの場合が、その工事の受注業者の従業員がつとめます。現場において大きな権限を持っており、現場を統括する役目を担うだけでなく、発注者との交渉や連絡業務にもあたります。
現場代理人の配置義務について
公共工事において、その工事の請負業者は必ず現場代理人を現場に配置しなければなりません。
この事は「公共工事標準請負契約約款」という、各自治体が公共工事を業者に発注する際に、必ずその業者と結ぶ契約書の中で義務付けられています。
公共工事標準請負契約約款
国土交通省の中央建設業審議会により作成された、公共工事の際の行政(発注者)と民間の建設業者(受注者)の間で締結する建設工事の請負契約書
この契約書の中に、建設業者は工事の現場に現場代理人を必ず置くよう記載があるため、もし置かなかった場合は、法律違反にはなりませんが、契約違反ということになります。実際に、公共工事標準請負契約約款の中の現場代理人に関する記載箇所を見てみましょう。
受注者は、次の各号に掲げる者を定めて工事現場に設置し、設計図書に定めるところにより、その氏名その他必要な事項を発注者に通知しなければならない。
(中略)一 現場代理人
(中略)現場代理人は、この契約の履行に関し、工事現場に常駐し、その運営、取締りを行うほか、請負代金額の変更、請負代金の請求及び受領、第十二条第一項の請求の受理、同条第三項の決定及び通知並びにこの契約の解除に係る権限を除き、この契約に基づく受注者の一切の権限を行使することができる。
引用:公共工事標準請負契約約款第十条
なお、この契約書の中に具体的に記載があるものもありますが、ほとんどの公共工事の場合、現場代理人については下記制限があると考えましょう。
現場への駐在義務:有
主任技術者等との兼務:同一現場に限り可能
従業員の雇用関係:直接的かつ恒常的
そもそも法律上(建設業法上)は配置義務はない
公共工事では契約上配置義務がある為、現場代理人は法律で配置が義務付けられていると勘違いされやすいですが、現場代理には法律上の配置義務はありません。
その点が、建設業法にその配置が義務付けられている主任技術者や監理技術者との最大の違いです。
ただし、民間の建設工事でも、特に大規模な工事においては、請負契約書の中で、公共工事同様に現場代理人の配置が規定がされるケースがあります。その場合は、例え配置しなかったとしても、法律上は問題ありませんが、契約違反という別の法的問題が発生する可能性は大いにありますので注意しましょう。
現場代理人になる為の資格や条件
現場代理人は、法律で規定されている事が「通知義務」以外にない為、現場代理人になる為の条件や資格は法律上は特になく、誰でもなる事ができます。極端に言えば、会社の新入社員でも採用したばかりの中途社員でも派遣社員でもパートさんでも誰でも良いのです。
そもそも現場への配置義務がないので、例え配置したとしても駐在義務もありません。ただし、今話したことはあくまでも法律上は規定がないというだけで、契約次第では当事者間で厳しく規定されるケースはあります。
特に公共工事については「公共工事標準請負契約約款」の中で、雇用条件や現場への駐在義務は厳しく設定されています。ここがこの現場代理人のややこしい所ですので気を付けましょう。
公共工事の現場では現場代理人と主任技術者などは両方置かれる
公共工事は現場代理人の配置が、その契約の中で義務付けられている事はここまでお話した通りです。
一方で、法律によって、公共・民間問わず現場への配置が義務付けられている技術者に主任技術者と監理技術者があります。
この両者はまったく別の根拠により配置が義務付けらえている為、公共工事を請け負った業者は、原則この両者をどちらも配置しなければなりません。では同じ現場に同時に存在する、この両者の役割の違いは何なのでしょうか?
主任技術者・監理技術者
技術的または品質的な側面から現場を指導・監督する事で工事を統括する(そのため一定の資格や実務経験がないとなれない)。工作物の品質を一定に保つための役割を期待されているイメージ(その為、建設業法によって配置が義務付けられている)。
現場代理人
建設業者(受注者)に代わって、契約に基づく一切の権限を有し、請負代金の請求、発注者など外部との連絡や交渉、また労務管理や安全管理なども行い、多方面から工事を統括する。発注者や労働者の管理により工事の円滑な推進を期待されているイメージ(その為、契約によって配置を義務付けるケースがある)。
同一現場の場合、現場代理人と主任技術者等は兼務可能
請負業者からすると、現場代理人と主任技術者・監理技術者を両方配置するとなると、人員的な負担が大きくなります。その為、公共工事の場合、同一現場に限り両者の兼務は認められています。
現場代理人と主任技術者・監理技術者の違い
現場代理人と主任技術者・監理技術者の違いを一覧にまとめました。
現場代理人 | 主任技術者 監理技術者 | |
配置義務 | 法律上は無し ※公共工事では有り | 法律上、建設業者に配置義務有り |
駐在義務 | 法律上は無し ※公共工事では有り | 専任が求められる工事は有り |
兼務 | 法律上は規制なし ※公共工事では同一現場のみ主任技術者等との兼務可能 | 専任が求められる工事では原則不可 ※一部例外は有り |
雇用関係 | 法律上は規制なし ※公共工事では直接的かつ恒常的 | 直接的かつ恒常的 |
現場代理人配置の通知義務
現場代理人を現場に置く場合、以下の事項を必ず書面で注文者に通知しなければなりません。
・現場代理人の権限
・注文者が代理人についての意見を請負者(建設業者)への申し出る方法
現場代理人は工事の受注者に代わって大きな権限を持つことになるので、工事の注文者からすれば、勝手に知らない人に現場代理人になられたら困るわけです。その為、現場代理人を配置したときは、注文者にその旨は通知する仕組みが作られているのです。
これは、建設業法の中で唯一現場代理人について規定されている決まりですのでしっかり覚えておきましょう。
請負人は、請負契約の履行に関し工事現場に現場代理人を置く場合においては、当該現場代理人の権限に関する事項及び当該現場代理人の行為についての注文者の請負人に対する意見の申出の方法(第三項において「現場代理人に関する事項」という。)を、書面により注文者に通知しなければならない。
現場代理人と現場監督の違いって何?
よくご質問を受けるのが現場代理人と現場監督の違いです。「現場監督」は建設業法の中で出てくる名称ではなく、業界で一般的によく使われる言葉として、施工管理や安全管理を任されるポジションの人達の事を指します。
法律上定義が決められている言葉ではない為、主任技術者や監理技術者の事を現場監督と呼ぶケースや、現場代理人の事を現場監督と呼ぶケースもあります。現場代理人と現場監督がどちらもいる現場の場合は、現場監督は主任技術者や監理技術者を指している事が考えられます。
まとめ
以上、ここまで現場代理人についてご紹介しました。
現場代理人は法律上で細かい規定はされておらず、注文者と請負業者間での契約の中でその取り決めがされる事になります。
特に公共工事においては、駐在義務や雇用関係の条件が設定されている為、契約違反にならないよう、しっかりその規定を理解するようにしましょう。